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噺家が作る手拭い

二つ目昇進

手拭いは二つ目に昇進すると作ります。それまでは人からもらった手拭いを使用します。前座の頃は手拭いを毎日汚すので、たくさん持っていないといけないんですね。それが二つ目からは、高座でしか使わないのであんまり必要なくなります。噺家が手拭いを作るのはいわゆる名刺としての役割を持たせるためです。日頃お世話になっている方へ配ったり、あとは噺家同士で交換したり、そんな使い方です。

初めてこの自分の手拭いを作るときの嬉しさったらないですね。本当に嬉しいです。前座の時にはなんでもない芸名が、実際手拭いを作ってたとう紙をつけると、魂が宿ったような気がします。ただの名前がやっと人の名前になるんです。

二つ目昇進費用

我が落語協会においては大体3〜5人くらいで一緒に二つ目に昇進します。春か秋にのどちらかです。1年か半年以内に通達が来るので、その間にこの手拭いをこしらえるのと黒紋付をあつらえることをしなければなりません。二つともとてもお金がかかりますが、二つ目になれる嬉しさで全然苦じゃありません。

普通の前座は、お正月のお年玉、それから寄席以外で得た収益や祝儀なんかを取っておいてそれをこういう費用に持ってくるものです。何人かに一人、お金を全然貯めていない奴がいます。そう、私もその一人でした。僕の師匠の方針で前座の頃は、打ち上げとかにはいけないので、基本的お金を使うシチュエーションはあまりないはずなのに、洋服を買いあさったり、とにかく無駄なものに使い続けたせいで、お金を全然貯めていませんでした。

ただ、ちょっとラッキーだったのは、二つ目になるという通達が1年前に来たこと。僕らは前座生活が少し長くなっていたので、たぶん理事の方が気を遣って早めに言ってくれたんだろうと今は思っています。

2010年の冬くらいに「2011年11月から二つ目昇進」と言われたわけですから、丸一年準備ができるわけです。もちろんお年玉は使わない。脇(寄席以外の仕事)で稼いだお金もできるだけ貯蓄。そんなことをしてなんとかお金を貯めました。そして昇進の半年前くらいからいよいよ手拭い作りにかかりました。ギリギリ男です。

柄はコスモス

 

 

赤アップ2

この写真は赤ですが最初に作った色はからし色でした。僕の作っている手拭い屋さんは「佐藤染業」というところで高田馬場にあります。行ってわかったことですが、社長は学習院の先輩でした。こちらの手拭いは染めが非常に良くて、噺家のシェアもかなりありまして、半分くらいはここで作っているんじゃないんでしょうか。

僕も毎年色を変えて作っています。手拭いは、まず型を作ってもらって、あとは染め足す時はその型を使って作るわけです。型を作るのにお金がかかりますので、毎年柄を変えたらそれだけ型の代金がかかってくるので、大体の噺家は同じ柄で毎年色だけ変えるというのがほとんどです。

さて、この手拭いの柄はその人の個性が出るもので、大体二つのパターンにわかれます。個性のあるものか、落語に使いやすいもの。この二つですね。僕は後者の方で、落語に使ってもらえるものを考えました。落研の先輩にイラストレーターの方がいたので、その方にお願いをしました。

紫手拭い

僕の昇進した時期が秋で、その方がコスモスの小紋を考えてくださいました。小さいのと大きいのを並べてとても品が良くていいですよね。一つだけ蕾が入っているのはうちの師匠のアイデアです。

「このつぼみが花開くようにがんばれ。」

と言ってくれました。

初めに作った色も師匠に何枚か見せて色を決めたんですが、僕の中ではただ黄色と思っていたんですが、柳家小満ん師匠にお渡ししたら、

「お。からし色だね。」

とおっしゃって。そこで覚えました。からし色。そこからからし色になりました。この手拭いはもうほぼ10年前のものでたぶん持っている方がいたらかなりレアだと思います。僕が高座で使っているくらいです。

手拭いのたとう紙の文字は喜多八師匠から

それと手拭いには、たとう紙というものに包んであるんですが、このデザインも考えないといけません。基本的には「のし」と「赤道」と言って真ん中の赤い線ですが、その二つがフォーマットであって、そこは変えないで、あとはそれに寿と芸名を入れて発注するんですが、僕は全部オリジナルにしました。

「のし」という字は佐藤染業のものは少し変わってて、のしが三つ書かれているかわいいやつだったんですが、うちの師匠が「一個にしたほうがいいんじゃない?」というので一つにしました。

それと真ん中の赤い線「赤道」は太さ3ミリくらいあったのをこれまた師匠が「細いほうがいいんじゃない?」という一言で、以下のような細さになりました。

手拭い畳う紙

「寿」「林家はな平」の文字は、柳家喜多八師匠にお願いしました。喜多八師匠は学習院落研の先輩で、落研の前は書道部であったこと、というよりもう落語界では達筆で有名な方でしたので、お願いしました。

「協会に置いとくから、適当に選んで。」

と留守電が入っていて、取りに行ったら半紙が何枚もあって、そこにこの寿と林家はな平がいくつもありました。うれしかったですね。うちの師匠と一緒に選んで、今のデザインのものにしました。

「お礼は要らない。」

と仰いましたけど、そうもいかないので師匠の好きだった〆張鶴をお渡ししました。よく考えたら自転車で出勤されていた頃なので重かったでしょうね。師匠すいません。

かくして出来上がった手拭いですが、配る時は本当に嬉しいです。後輩にはお小遣いを少しつけて配る。そういうのもなんだか急に出世したような気がして嬉しいんです。そんな手拭いですが僕は毎年色を変えて染めています。

なので今は10種類くらい色があります。

今年もお願いして、もう直ぐ染め上がって参ります。新しい色が出たらまた皆様にお披露目します。

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