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前座の中の階級

前座の階級

お客様から見えない部分に前座のヒエラルキーがあります。

前座時代というのは大体4年くらい。長くて5年くらい。この間、ずっと寄席に通います。朝は師匠の家に始まり、昼間は寄席に行き、たまにホールの落語会なんかで働くとこもあります。

ただ、この前座の中にも言葉にはしませんが見えない(階級)があることをご存知でしょうか?

前座と一口に言っても、寄席においてはそれぞれ役割が違うのです。この前座の役割は、特に寄席に出演する落語協会と落語芸術協会に存在しているように思えます。寄席というシステムがそういうのを生み出すんだと思います。

落語協会と芸術協会ではおそらく細かく異なる部分がありますので、これからご紹介するのは落語協会におけるお話です。

まず、前座の仕事は大体四つくらいに分類されます。

上から、立て前座、太鼓番、楽屋番、高座返し。

今日は落語家になったつもりで、新人前座になったところからお話ししていきます。

高座返し

前座になるとまずは高座返しという役割を与えられます。一番の仕事は、舞台の転換をする。落語と落語の間なら、座布団をひっくり返して、めくりをめくる。落語と色物さんとの間なら、道具を出したりマイクを立ちマイクに換えたり、高座返しはいわば最前線です。そう、前座になるとまずいきなり最前線に出されるわけですね。

しかもこの高座返しは、一番しくじりが多いです。高座返しもただやってるようで、細かく違います。座布団とマイクの距離、マイクの高さ、あとはそれぞれ色物さんの道具の置く位置など、それぞれの芸人の好みに合わせなければいけません。しかも寄席によって舞台のサイズも、上手下手も、仕組みも全部違うので、寄席ごとのルールで全部覚えなければいけません。

さらにこの高座返しの前座は他の仕事もあります。お茶出し、着付け、着物を畳む。コレら全てがこの高座返し階級の仕事です。これが大体一年前後あります。下が入ってこなければもっと長くなりますけどね。

高座返ししながら、お茶出したら、着物やらが出来るのかってよく言われますけど、ここで落語家が覚える術が役に立って来ます。もしかしたら、この術自体が落語家に向いているか向いていないかを判定する最初の材料かもしれません。

落語家が最初に覚える技

その術というのは「捨て耳」という術です。楽屋に入ってまずこれを覚えます。捨て耳。なかなか聴き慣れない名前ですね。耳を捨てるってどういうことなんだと思われるかもしれませんね。これはつまり、耳にギアを入れない。常にニュートラルな状態にしておくということです。

楽屋では色々な仕事をします。お茶入れて着物畳んで着付けして、あとは師匠方と少し話すこともあるかもしれない。そういうことをしていても常に耳だけは高座を意識していなければいけない。いつ切れても(高座が終わる)良いように準備だけはしている状態。これが捨て耳です。終わった人が帰ってくる時に戸を開けていないといけなくて、捨て耳が出来ないとこれに間に合いません。かといって間に合うために舞台袖にずっといると楽屋仕事が出来ない。だからこそ楽屋にいながら捨て耳をするわけです。師匠と話しながら、耳だけは高座を意識する。生返事しない程度にちゃんと相槌を打ちながら。

この捨て耳が上手い人は太鼓が覚えるのも早いし、ネタをたくさん聴く力があるので、やっぱり落語にも役立つと思います。

楽屋番

そんな捨て耳を駆使しながら高座返しを約一年やると今度は楽屋番になります。

楽屋番は高座返しから切り離されて、ちょっと楽になります。楽屋に居て、お茶だし、着物のお手伝いに専念するのが楽屋番です。割と地味な部分ではありますが、この楽屋番は楽屋にずっといるので、師匠方の話がたくさん聞けてとても楽しいです。

太鼓番

で、これがまた半年から一年、次に太鼓番になる。

前座のウチではこの太鼓番の時期が実は一番楽です。文字通り太鼓を叩く人です。この役目は太鼓を叩くだけなので、ずっと太鼓のそばに居ます。師匠方が舞台から降りて来たら、「お疲れ様でした。」と言って、あとはまた太鼓に戻って、お囃子さんとぺちゃくちゃ喋って待っている。お囃子さんととても仲良くなる時期ですね。

だけどこの太鼓番は一番サボりがちなポジションですが、良い前座は後輩のお手伝いをしてあげたり、高座が切れるまでは楽屋で働いたり、性格が出ますね。

僕はどうかって?ずっと太鼓にへばりついてましたwばれない程度に。ばれてましたかね。

この太鼓は前座の必須科目で、基本的にはこの太鼓番になったらやらなければならず、苦手な人は結構苦労します。叩き方を覚えても、お囃子さんの弾く癖に合わせて叩かなければならないし、あとは単純にお客さんが聴いてるわけなんで、いわば演芸そのものに参加しているので、とても重要です。

前座の花形「立て前座」

そんな太鼓番が終わると、晴れて立て前座になります。

立て前座というのは以前に触れたこともありますが、いわゆる前座のトップ。仕事は、ネタ帳を書いてお後に上がる師匠や先生に「おあとお願いします」と言う。基本的にはコレだけです。あとは立て机に座って楽屋を見つめている。

後がこない時は、時間を伸ばしてもらったり、時間が押したら詰める(短くする)のを頼んだり。寄席進行の番人です。カッコいいですね。

同じネタが出ちゃった!

ただ立て前座やってて嫌なタイミングがあって、前の方がやったネタを後の人がやっちゃった時です。これは結構緊張しますよ。

寄席というところは基本的に入れ替えなしなので、朝から晩までやっています。ネタ帳も朝からずーっとつけるわけですが、同じネタは出ちゃいけないことになっているんですね。だけどどうしても朝からのネタ帳なんで見落とすことがある、そんな時は前座が高座に出て行って「師匠、もう出てます」と言いにいかなきゃならない。

でその師匠はネタを急遽変えるわけです。この高座に出て行く時が緊張するんですよね。落語を止めるわけですから。

この立て前座も、後輩のお手伝いをしてあげる人も居れば、絶対に立て机から動かないって人も居て、コレも性格が出ます。僕は正座が辛かったんで、立てになってもあちらこちらに行ってました。

「立て前座は動かなくていい」

ってよく師匠方に言われましたね。

さて、これらの前座の役割ですが、明確に階級としてあるわけではありません。その日その日で変わるわけです。

キャリアの違う前座同士が入りますから、今日は立て前座であっても明日また先輩が居たらその人がその日は太鼓番だったりするわけです。特に楽屋番と太鼓番の時期が一番そういう事が多いです。毎日違う役割をしながら前座修行を重ねて行きます。

前座のお給金

給料は?と良く聞かれますが、前座のお給金は交通費程度です。年に一度くらい数百円上がりますが、そんなに跳ね上がるわけではありません。

ただし、脇のお仕事でまとまったお金が貰えるので、それでなんとかなります。立て前座の頃になると脇のお仕事が増えて、それだけでもかなりのお金になるので、前座の最後の方は意外と稼いでいたりします。二つ目になると全く一から始まるので、二つ目最初が辛いですね。そのお話はまたしますが、ともあれ前座というのは「落語」に対してお金が払われているのではなく、「楽屋働き」に対してお金が払われている。このことを肝に銘じながら働かないと続きません。

前座修行はあくまで修行なので、お給金は少ないですが、なんとか食べて行くには色々な師匠にハマって(気に入られて)脇の仕事に行ったり、あとはホール落語の前座のレギュラーになるとまとまったお金が入って来ます。